00.プロローグ


薄暗い部屋の中に、フードで顔を隠した者が数人集まっていた。狭い部屋には変わった形の机以外なにもなく、ガランとして殺風景だ。

「時が来た。ついに、我々の願いが叶う。」

一人がねっとりとした口調で話し始める。声質からして、男のようだ。

「今宵、すべての準備が整う。ここにいる全ての者に、栄誉有る地位を約束しよう。
 誠実なる我が友よ。光は我等と共にある。
 甘美な宴を、はじめよう。」

男はそう話し終えると、部屋の真ん中にある奇妙な形の机の前に立った。それに従うように残りの人間も机の周りを囲む。
その机は、台の表面が鏡で出来ているようだった。狭く汚らしい部屋には似つかないほど磨き上げられ、薄暗い部屋の中でそれだけが異様に輝いている。

男は太古から使われる古い言語で、その鏡に長々と何かを書き、更にその上に複雑な模様をいくつか書き足した。
書き終えたのか、小さく口を開き、何かを呟き始める。

「大いなる神々よ、我等の声に力を与え賜え。
 七つの星が重なりし時、陰は満ち、永久の風が吹く。」
それはまるで呪文のようだった。

次第に、周りの者達も声を合わせて囁きだす。
「……条なる時の流れ、定まりし盟約、型を変え円を成す。
 廻る命、願いを叶えし者を此処へ。」

皆の声が一斉に止まった。鏡に書かれた言葉と模様が、眩い光を放ちはじめる。
周りの者達はそれに全く動じる事なく、一心に鏡の中央を見つめる。

幾つもの視線が集まる場所に、何かが、映りはじめた。徐々に形が明確になり、その全貌がはっきりと輪郭をもつ。そこに映っていたのは、少女だった。慌てているのか、少し走っているようだ。 黒髪に黒眼。髪の長さは肩にかかる程度。美人ではないが、可愛らしい顔をしている。鏡の中で動くその少女は、もちろんこの部屋にはいない。よって、鏡に映っているのではない。 ここには存在しない筈の少女は、この鏡を通して観られているのだ。

「この娘だ。この娘が、もうすぐここへ来る……。」
男の声に、周りがざわつく。その声は底知れない歓喜に満ち溢れていた。

「我々の願いを叶えし娘。それが今、手に入る。」

そう言って男が鏡に手をかざすと、光がより一層強くなった。あまりに眩しすぎるその光に、部屋にいる全員が目を細める。


次の瞬間。眩い光の中に、何かの影が見えた気がした……



やっとはじまりました。
これからよろしくお願いします。
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[2009年 4月 7日]