02.

目を開くと、そこは丁寧にもベッドの上だった。
しかも、目に映るのは単なる天井ではなく、この上なく豪華で大きな天蓋。布の質といい、その大きさといい、どうやら私が寝ているのは豪華天蓋付き超高級特大ベッドらしい。
馬鹿らしい。馬鹿らしいほど現実味がない。
左右を見ると、私がゆうに12人は寝れそうだ。それに大きいのは横幅だけではなく、それに比例して縦幅も大きい。一体このベッドに寝るのはどういう人物なのだろうか。少なくとも、とんでもない金持ちだということは確かだ。
私の知り合いにそんな金持ちはいない。一体全体、どうしてこんなベッドに寝ているのだろう。
起きあがってベッドの周りを確かめようとした私は、化石になったかのように固まった。

は?何なの此処!

わたしの目の前に広がる壮大な部屋は、もはや部屋と呼べるのかもわからない。とにかく、広いのだ。私の家の総面積の何倍だろう?これだけ広いと、逆に無駄なんじゃないだろうか。
そして次に私の目に映るのは、美しい、美術品かと疑いたくなる家具の数々だった。これだけ豪華なのにもかかわらず、品が良く、嫌味な感じはない。同調色で整えられた家具の数々は、まるで一度にオーダーメイドしたかのように、調和しあい、良く合っている。
豪華絢爛な部屋のなかに居る、制服すがたの私。
えーと?状況が全くつかめない。此処は何処だろう。あの黒い闇に引きづり込まれたのは夢だったのだろうか。あんなおかしな事が本当に起こるなんて、考えられない。変なきのこでも食べただろうか……。いや、あの時道端で倒れて、親切な人がここまで運んでくれたと考えるのが、一番無難な気がする。そう考えれば、あの黒い闇は夢の中で私が作り出した妄想だということに出来る。
きっとそうだ。
しかしそれにしたって、こんなに豪華な部屋にいる理由は全く説明できない。
はたまたこれも夢?

そう思った、その時だった。真後ろで何かが動く音がした。

「だ、誰?」
驚いて勢いよく後ろを振り向くと、そこに居たのは、全身黒い男だった。
ドアが開く気配もしなかったのに。いつの間に人が?
豪華な衣装、高い背丈、この人がこの部屋の住人かもしれない。
そんな思考は、男と目が合った瞬間に音を立てて砕けちった。

−−−−紅い瞳。

なんと、目の前の大きな男の瞳は紅かった。そして男の顔は、言葉では言い表せない程の美貌だった。
切れ長の目、筋の通った鼻、艶やかな唇。それらは、この世のものとは思えないほど美しい顔を形作っている。
その男の容姿でただ一つ親しみを感じるのは、日本人と同じ、そして私と同じ黒髪だった。どちらかというと、私の髪の方が黒さが濃いかもしれない。
私は目を見開き、男の顔を凝視する。こんな美形には出会ったことがない。思わずボーっと見入ってしまう。
しかし、そんな時間は長く続かなかった。
私は気づいたのだ。
それはほとんど直感だった。あるいは、人間にもまだ辛うじて残っている野性的かんかも知れない。
男と、私は絶対的に違う気がする。紅瞳に宿る冷たい光に、思わず背筋が凍った。

怖い

私は慌てて視線を下げて、大きな男の豪華な衣装を見る。見れば見るほど豪華な衣装だ。高級な布が使われているのは一目瞭然だが、その布を巧みに彩る銀糸の刺繍は、角度によって輝きが変わる。


私には聞かなくてはいけないことが山ほど有るはず。なのに、私の頭は、今、全く正常に働いていない。何か言うべきか、言わないべきか。そんなことを考えることなく、ただ衣装をみつめた。頭の中は、真っ白だ。

男も何も言葉を発しない。男の顔には、澪の姿を認めた瞬間、一瞬だけ驚きがうかんだが、今は無表情で、何を考えているのかは伺えない。
しかし男はこの長い沈黙の時間に痺れを切らしたのか、現れた時と同じように突然、声を発した。


感想・誤字脱字報告等有りましたら是非お願いします。