すると返ってきたのは、あの王の声では無かった。
「姫様、お着替えと湯浴みの準備ができました。扉を開けてもよろしいですか?」
「ひ、姫!?」
それって、誰のこと?え?私!?
「どうぞ?」
姫とは誰の事か、結論に達していない私は、疑問型の返事になる。
「失礼します。」
そう言って丁寧に礼をして入ってきたのは、どうやら、若い女の人だ。
「あ、あの?」
やはり、状況がいまいち把握できない私。こんなに脳の回転が遅かっただろうか。
「はい。私は、このお城の侍女頭を勤めさせて頂いております、ローナという者で御座います。この度、姫様のお世話を担当いたします。それから……」
その人は、とても綺麗な女性だった。かなり美人の領域に入る。彼女は、そこまで言うと後ろを振り返る。
そこには、同じ服を着た若い女性が2人。
「それから、この2人も私の下に配属されました。姫様直属の侍女でございます。」
「え?侍女?誰の?」
「もちろん、姫様ので御座います。」
ローナと名乗った美人さんは、私に向かって柔らかに微笑む。
「姫様って、私のこと?」
「ええ。お察しの通りです。」
……私に侍女なんかつけてどうしようと言うのだ。まさか、これも監視の一環なのでは……。
「それでは、2人とも、自己紹介を。」
思わず見とれてしまうような笑顔で私を見て、後ろの2人を振り返る。
「はい。ローナさん。
私は姫様のお世話を仰せつかりました、ルアンダでございます。姫様、どうぞ宜しくお願いします。」
つづけて、もう片方が言う。
「私も姫様のお世話をさせて頂きます、メアリと申します。宜しくお願い致します。」
「は、はぁ。」
彼女達の洗練された美しい物腰とは打ってかわって、私は何とも情けない返事をした。でも、急にこんな事を言われて、はいそうですか、とは言えない。
それにしても、どの人も美人ですごく背が高い。この世界には美人しかいないのだろうか。
「あの、ろ、ローナさん?なんで私が姫様なんですか?」
私のどの辺が姫なのか、是非聞かせて貰いたい。
「ミオ様が、姫君だからです。」
彼女は滑らかに答える。が、答えになっていない。
「私、姫では無いんですけど……。」
そう言うと、彼女は少し驚いたようだった。どうやら、あの王からはあまり詳しく聞いていないらしい。
「そうなのですか?では、ミオ様とお呼びしましょう。それから、私のことはどうかローナと呼び捨てに。」
「いいえ、そんなことは……。」
彼女は、若いと言っても私よりは年上な気がするし、こんな綺麗な人を呼び捨てにするのは……。
「なりません。私は侍女で御座います。どうか、ローナと。」
彼女は、そう言って聞かない。結局、私は彼女をローナと呼ぶことになった。
それから、残りの2人のことも、呼び捨てで呼ばなくてはいけないらしい。
「それでは早速湯浴みを致しましょう。こちらになります。付いてきてください。」
ローナは、そう言って王の間に入った。私は一瞬迷ったが、素直に彼女のあとをついていく事にする。
私が歩き出すと、後ろからルアンダとメアリが付いてくる。
ローナは、王の間にある一つの扉を開けて、更に進む。どうやら、廊下に出たようだ。
そして王の間から三つ目の扉の前に立つ。
「こちらで御座います。」
ローナは扉を開けると、先に入るように促した。
中に入ると、そこはまた広い空間だった。
「ここは脱衣所です。お洋服をお脱ぎしましょう。」
ルアンダとメアリに目配せすると、3人がかりで私の服を脱がせにきた。
「ちょ、ちょっと待って!」
私は必死に暴れる。人にされるなんて、恥ずかしすぎる!
「大丈夫です。お任せ下さい。」
私の抵抗も虚しく直ぐに裸にさせられると、次の扉が開いて中に連行された。
そこは、巨大な浴場だった。正面には、口を開けたライオンがお湯を吐いている。床はこれでもかと言うほど磨き上げられ、つるつる滑りそうだ。ぎゃ、逆に危なかったりして……。
3人は、細い腕からは考えられないくらい強い力で、暴れる私を押さえつける。
「待って!自分で出来ます!ちゃんと洗えます!」
私はそう叫ぶものの、3人は涼しい顔をして取り付く島もない。私の体を丁寧に、しかし力強く洗っていく。
私はだんだん暴れ疲れ、もうどうにでもなれと言う心境だ。
「もう、良いです。勝手にしてください。」
私は完璧に負けを認めた。
「そうですか?ですがもう終わりましたよ。」
ローナのさらっとした一言。
もう、いいです……、何でも。
そして3人で私を浴槽に沈める。私は、抵抗する余力が残っていない。
「……はぁ。」
お湯は、適度に温かくて丁度良かった。気持ちいい……。
「それでは私どもは脱衣所で待機しておりますので、何かありましたらお呼びください。」
3人は浴場を出ていく。
私はそれを黙って見送って、浴槽に深く沈むと、ため息を漏らす。
「はぁ。疲れた……。」
全くもって、体力消耗もいいところである。お風呂に入るだけで、こんなに疲れるなんて。
それにしても、あの力は何処から来るのだろう。
もしや、あんな綺麗な顔で、実は筋肉もりもりなのではないだろうか。
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