09.

「それにしても、ミオ様の御髪は本当に綺麗でございますね。」
「「ええ。本当に……。」」


私は今、自分の髪を3人に梳かれている。いや、弄ばれている?
ローナはうっとりした表情で私の髪を結う。
ルアンダとメアリはそれを傍らで見つめている。

あの後、私が浴槽から出ると、きっちり整列して3人が待っていた。
そして例のごとく押さえつけられ、見るからに高そうなドレスを着させられた。裾が長くて、もう何度も転けそうになった。その上、高いヒールの靴まで用意されていて、今もそれを履いている。
私に宛われた部屋に着くと、すぐさま化粧台の前に座らされ、それから長い間、私は髪をもて弄ばれているのだ。綺麗だ、素敵だと歯の浮くような言葉で褒められながら。

私にしてみれば、この黒髪より、ローナの栗色の髪や、ルアンダの焦げ茶っぽい髪、それからメアリの少しオレンジがかった茶色の髪の方が、何倍も綺麗に見える。

「あの……、私の髪がどうかしたのですか?」
私はとうとう痺れを切らした。

「ああ、ミオ様。敬語はおやめ下さいとあれほど申しましたのに……。」
ルアンダが嘆く。
「ミオ様のこの美しい黒髪のことですか?」
ルアンダの声を追って、ローナの未だうっとりした声がする。
「は、はい。」
「ミオ様、もしやご存じないのですか?この様な漆黒のお髪をもつ方など、私はお会いしたことがございません。高貴な王族の方に置かれましても、こんなに美しい黒髪をもつ方はいらっしゃいません。あの孤高の王でさえ、黒は薄いのですから。」

「え?」

それって……。

「ああ。やはりご存じないのですね。黒髪は大変貴重なのです。黒髪をもつ方は、数えられる程度しかおりません。それも黒髪と言っても、少し他の色も混じったような、とても漆黒とは呼べないものです。ミオ様の御髪は、それはそれは貴重なのです。」
「そ、そうなの?」
私は半信半疑。だって、日本にはあんなにたくさんいたのだ。
「ええ。それに何と言っても、そのお目!もう奇跡だとしか申せません!私、生きて黒髪黒眼の方にお会いできるなんて、夢にも思っていませんでした。何と幸運なことでしょう。きっと、何か良いことが起こるに違い有りませんわ!」

「え?ええ!?」

ローナは興奮気味だ。まさか奇跡とか幸運とか言われるとは……。ルアンダとメアリは、ローナの言うことが尤もだと言うように、首を激しく縦に振っている。
「ああ。私ども全身全霊でミオ様のお世話をさせて頂きます。」
「もちろんです。」
「もちろんですわ。」
3人は、気合い満々だ。瞳が熱く輝いている。それを見て、不満を言おうと思った私の意志が萎れていく。言っても100%耳を貸さないだろう。
明日も今日と同じようにお風呂に入るのかと思うと、それだけで今からゲッソリする。
私は行儀悪く椅子にだらんと腰掛け、諦めの姿勢を取った。


「いけない!ミオ様の御髪に見とれていたら、もうこんな時間だわ。」
「ミオ様。これから直ぐに食堂で御夕食をとって頂きます。」
「本日は王が一緒に取るように仰せです。行きましょう。」
この椅子に座ってから、どのくらいの時間が過ぎただろうか。
3人は口々に私に呼びかけ、着いてくるように促す。

あの無表情の王と食事をするのか……。さぞかしつまらなそうだ。間違いなく会話は弾まないだろう。それに私、テーブルマナーとか分からないし……。堅苦しい食事なんて嫌いだ。せっかくの料理を楽しめない。

それでも、王が食べる料理は美味しいに違いないと、それだけを楽しみに思った。


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