「ここです。どうぞお入りください。」
食堂は、廊下を挟んで王の間の左隣にあった。そこには、既にあの王様が一番奥の席に着いている。
私はローナにエスコートされ、王の隣に座る。何となく隣は嫌だったが、椅子を引かれてしまえば文句を言うことも出来ない。
私が座ったのを確認すると、王は手元にあった呼び鈴を鳴らす。
すると何処からか、豪華な料理を銀のお盆にかかえた者たちが、降って湧くように出てきた。
私は驚いて目を見開く。一体何処にいたのだろう。
そして彼らは黙々とテーブルに料理を並べていく。その量は、とても2人用とは思えない。豪華なのは言うまでもない。
彼らがまた何処かに消えると、王は黙って食事を始めた。
私は思わず口を小さく開けて王を見る。だって、挨拶は?挨拶が無くたって、なにか言葉をかけるとか。
王は私の目線に気づいているに違いないが、そんな素振りを微塵とみせず、顔はやっぱり無表情だ。私はカチンときて、黙って眉を寄せる。
「頂きます!」
仕方ないので、一人で言った。かなり大声で。
王は無表情で私を一瞥し、何も見なかったかのように元に戻る。
大きな部屋の端に控えている給仕達は、この光景を和やかな目線で見つめている。その目線の意味は、……よく分からない。
異世界に来て、初めての食事。どんなものが出されるのか、少々不安だった。だが予想に反して、未知の物体と呼べるようなものはなく、どれも良い香りがして美味しそうだ。
私は黙々と食べ始める。
個人的には、静かな食事は居心地が悪い。
しかし、チラッと隣の王様をみて、ため息をついて諦める。やはり無理だ。この王と和やかに会話を楽しむなんて。
料理はどれもこれも実に美味しい。お腹が空いていたのだろうか、いくらでも食べられそうだ。
食べることに集中していた私は、何やら強烈な目線を感じて隣を見る。
すると、もう食べ終わったのか、王が私を凝視している。もちろん、無表情で。
「な、何か?」
私は怖々と聞く。
「いいや。」
そう言いながら、目線の強さは変わらない。
「何でそんなに見るんですか。」
「特に理由はない。女にしてはよく食べると思って。」
「だ、駄目ですか?」
“女にしては”という部分に棘を感じるのは、私だけだろうか。
「いいや。」
やはり無表情。
「…………。」
この人と話すのは、何だか疲れる……。
最後に運ばれて来たのは、彩り豊かなデザートだった。
私の目が輝く。目線はもうデザートに釘付けだ。
隣の呆れるような目線を感じたが、そんなのは痛くも痒くもない。
私は一口食べると、満面の笑顔を浮かべた。
その光景を目撃した王は、軽く目を見開く。
「おいしー!!」
このデザートは絶品だ。これで明日も頑張れる気がする。
私は舌鼓を打ち、黙々とデザートを食べる。
「やる。」
「?」
デザートに集中していて全く目に入っていなかった隣を見ると、王様が自分の分のデザートをさしだしている。
何故そんなことをするのだろうか、甘いものが嫌いなのだろうかと考えるが、私の目は既に王の手の中にあるデザートから離れない。
「い、良いんですか?」
私は目線を上げて言う。
「ああ。」
いつもの無表情が、すこし苦笑したような微妙な顔で、王は言った。私は無表情が崩れたことに驚く。その上、その微妙な顔も、とても美しかった。
私は思わず、その顔を見つめる。
すると直ぐに、王は私から目線を逸らした。
うん?王の様子がおかしいような。
私はしばらく王の顔を見つめていたが、やはり甘いものの威力には敵わないと、王様の分を有難く貰うことにした。
「ありがとうございます!」
「ああ。」
次の返事は、いつもの無表情で返ってきた。
私は何だか残念に思いながらお皿を受け取る。
そのデザートは、2皿目もやっぱり美味しかった。
優雅に葡萄酒を飲みながら、わたしが食べ終わるのを確認した王は、支配者然とした声で呼ぶ。
「エドワード!」
すると何処かでそれに答える声がした。
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