数瞬後、王の横に紳士らしい柔らかな物腰の白髪の男が現れた。
「お呼びでございますか、陛下。」
「ああ。こいつに紹介しようと思ったのだ。」
王は私を顎でしゃくる。
良い歳の重ね方をしたのが見て取れる、何とも穏やかな笑顔で、男は私を見る。
「そうでございましたか。
私は、長い間この偉大な王の近くに仕えさせて頂いております、エドワード・シロワと申す者でございます。麗しき黒髪の姫君、この度はお目にかかれて大変嬉しく思います。
どうぞお見知り置きを。」
「……は、はぁ。」
私は何と答えて良いのかわからない。王族や貴族の優雅な受け答えは、とても出来ない。
しかし、王は、私に人を紹介してどうしようと言うのだろう。
「この者には、私の身の回りのことをさせている。私が生まれたときから仕えているものだ。」
「そ、そうなんですか……。」
だから、それでどうしようというのだ。私は曖昧な受け答えをする。
「あの部屋に暮らすのだから、何かと世話になることもあるだろう。」
「え?」
あの部屋って、私が借りた部屋のこと?あの部屋と何の関係が?
「陛下。あの部屋とは……、もしや。」
「ああ。王妃の間のことだ。」
「はぃ!?」
私は奇声をあげる。だって、今、王妃の間って!!えええ!?
「なるほど……。そうでございましたか。
大変喜ばしいことで御座いますね。私が生きているうちに王妃の間で暮らされる方がお出でになるとは……。」
「え?!」
どういうことだろう?私だけ会話に入れていない気がする。き、気のせい……、じゃないよ!!
「そんな者ではない。ただあの部屋が、一番都合が良かっただけのことだ。」
「そんなことを仰って、どんな女性もあの部屋だけには一歩も立ち入らせなかったではありませんか。それに、今の食事の席でも、いつもより数倍楽しそうにしていらしたではありませんか。他の誰を誤魔化せても、私は誤魔化せませんよ。」
「ど、そ、そうなんですか?」
思わず、「何処が?」と突っ込んでしまいそうになった。だって、隣の王はいつもと同じ無表情だった。あの顔の何処が楽しそうだというのだ。
「そんな戯言などいらん。私は……、いつもと変わらない。」
王は眉を寄せて言う。うーん、不機嫌そうなことしか分からない。
「左様で御座いますね。出過ぎたことを申しました。どうかお気になさらず。」
対してエドワードさんはニコリと微笑む。とても穏やかな笑顔の中に、穏やかじゃないものが含まれている、ような……。
訂正しよう。こっちの方が、幾分か質が悪そうだ。
「……。」
王は無言でエドワードさんを睨む。エドワードさんはふわりと笑う。
あの王が押され気味。
エドワードさん、あっぱれです!
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