12.

これは一種の悪戯か?いいや、それとも拷問か?


私はばんばん扉を叩く。
時は、夜。それも、深夜と呼べる時間帯だ。
そんな時にどうして私はこんなにハードに動いているのか。
私の願いはただ一つ。


「トイレに行かせてー!!」



私は、私の部屋と王の間を繋ぐ一枚の扉と、かれこれ10分は格闘している。
こんな話はしたくもないが、もう限界が近い。

目の前の扉は、憎たらしいほど(実際に憎たらしいが)頑丈だ。
私がどんなに力一杯叩いても、びくともしない。見た感じでは木製だと思ったのだが、もしや画期的な新素材だろうか。

叩いても無駄だと悟った私は、必殺跳び蹴りをすることにした。
「ええ〜いっ!」
馬鹿でかい部屋を活用して最大限に助走をとり、扉に向かってもう突進する。

―ドカドカンッ!!

脚が扉を蹴ったのはいいのだが、その後私の体は宙を舞って、床に激突。
私は肩を強打。
「いいいったぁー!!」
ああ、なんと間抜けなのだろうか。
私はあまりの痛みに動くことも出来ず、床の上で身悶える。
どうすることも出来ない。

−ガチャ

「…………?」

「おい、お前何をやっているんだ。馬鹿か?」
後ろで何か音がすると思ったら、王が扉を開けた音だったらしい。
私は必死に起きあがって、王を見上げる。見上げた先にあったのは、蔑むのを通り越し、むしろ哀れんでいるような顔だ。
……それはそれで悲しい。

「か、肩を打ってしまって……。」
私は未だじんじんする肩を押さえる。

王は黙って私の肩を見る。
そして私の顔を一瞥し、大きくため息をついて私の肩に触る。
「い、いたっ!」

「……。脱臼だ。医者を呼ぶ。待っていろ。」
王は即座に踵を返す。

「待って!」
私には今、強烈に痛む肩よりも、差し迫った問題がある。

「何だ。」
王は扉の前で立ち止まる。
「あの、私、その……。」
どうしよう。なんて言おう。“トイレに行きたいんです”って言うの?それじゃあ、なんでこんな怪我をしたのかバレバレじゃないか!それは嫌だ。

「何だ。早く言え。」
「ええと……。」
私は尚も言いよどむ。

「用がないなら行くぞ。」
それは困る。何しろ、私は場所も分からないのだ。ーーーートイレの。
もう、言うしかない。
「私、お手洗いに……。」
「…………。」
私の言葉に、声を失ったようだ。それほど強烈な内容だっただろうか。
「忘れていた。そのことを……。」
「はい?」
一体何の話をしているのだろう。

「魔法で鍵を掛けたは良いものの、こちらから開かないのでは……。そうか、そうだな。」
「この扉、魔法で開けられなくしていたんですか?」
あんなに必死に叩いたり引っ張ったりしたのに、全く無意味じゃないか!

「ああ。気づいていなかったのか?鍵穴が無いだろう。」
「え?」
ああ!言われてみると確かにそうかも!

「鍵は駄目か。まあいい、では行くぞ。」
王は自分だけで結論を付けて、私の腕を引っ張る。そりゃあ、怪我していないほうの腕だけれど……。
「い、痛い!」
引っ張られるわ引っ張られるわ。他にどうにか出来るだろうに……。

「ここだ。」
力一杯引っ張られて腕が痛かった私は、王をにらみつける。
「今度は何だ。」
王は、うんざりした顔だ。感情が溢れているのか、常の無表情が出来ないらしい。
「引っ張られてこっちの腕も痛いんですけど!」
「出来るだけ弱い力で引っ張った筈だが。痛かったのか。」
王は、今度は少し眉をひそめて困ったような顔をする。
……そ、そんな顔したって怯むものですか。

「痛いです。もっと優しく扱ってください!」
私は王を睨む。
「善処しよう。」
王は、私の睨みをさらっとかわして、一言。
何だか納得がいかない。


でも、ひとまずお手洗いに入ろう。


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