14.


「どういうことだ!!」

薄暗く殺風景な部屋に、男の怒声が轟く。



「恐れながら……。若輩の私どもには分かりかねます。」
男に一番近い人間が頭を下げる。男の周りには、フードをかぶった者が数人いる。

「私の魔法が失敗だったと言うのか!まさか!あり得ない。あれは、完璧だった!」
男のダークブルーの瞳には、色に似ず熱さまで感じるほど、怒りで燃え上がっていた。その中には、禍々しい狂気さえ垣間見える。

「ええ。存じております。あれは、至極完璧でございました。」
先ほどとは違う人間が男の後ろから声を掛ける。

「では、何故このような由々しきことが起こるのだ!!一瞬、影さえ見えたというに!!」
男は周りの者たちを睨み付ける。周りの者たちは視線を感じたのか、ビクッと震える。
男の怒りは、相当のようだ。

「恐れながら……、何者かの妨害と考えるのが、最もよろしいかと。」
その者は尚も謙る。それは、男の権力を明確に示していた。

「妨害……。しかしこの計画を知り得る者は、全て此処に集っているはずだ。……もしやお前達のなかに……!」
男の怒りは頂点に達しそうだ。

「ありえません、主よ。それはあなた様が誰よりご存じの事でしょう。」
「ああ……、血の盟約を交わしたのだったな。」
男はほんの少し冷静さを取り戻す。

「ええ。裏切り者には地獄しか待ち得ません。」
それを聞いて、男はニヤリと不気味に笑う。しかし、その男の表情を見る者は誰一人いない。周りを取り囲む者たちは、皆一様に頭を床ぎりぎりまで下げている。

「では、直ちに願いを叶えし娘を奪還し、此処に連れて来なければならん。この計画を知り、妨害した者には、死有るのみ。」
男の声音には、慈悲や愛の色は全くない。ただ、暗い闇が広がるばかりだ。

「ええ。それはもちろん。」
周りの者たちも、それを当然と受け止めているようだった。

「では、どの者にやらせましょうか……。」
その問いに、男は冷笑する。
男の考えは、既に決まっているようだった。唇が醜く歪む。
「ああ。我が影の者のなかに、能力が抜きん出ている者がいる。そいつにやらせよう。」
「そうでございますか……。しかし、このことは、」
「ああ、もちろん、そいつに全ては話さない。あいつは、ただの駒だ。代わりはいくらでもいる。失敗すれば殺せばいいだけのこと。」
それは、とても人が人のことを話しているようには聞こえなかった。

「それならよろしゅうございます。」

それを聞いて、音も立てずに、男は部屋を出ていく。
話し合いは終わったようだ。

次の瞬間、残りの者たちも消えていく。


いつの間にか、部屋には誰もいなくなった。





残るのは、冷たい静けさのみ……。


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