19.

「一介の魔法士?お前がただの魔法士なら他の奴らはどうなるのだ、帝国直属魔法士長にして、最高齢魔法士、シルバー・フォーカス。」
王がそう言うと、老人は少し怒ったような顔をする。
え?何?ちょくぞくまほぅし?
「ふん。簡単にもらしおって。お前は確かに魔力は凄いが、全くつまらん奴じゃのぉ。」
なにやら自分の地位を言ってしまったのがよほど気にくわないらしい。
しかし当の私が分かったのは、目の前の老人は帝王にも楯突く偉い人らしいということだけだ。
「今はそんな馬鹿な事を言っていられる時分では無いことを分かっているだろう。」
負けず劣らず、王も不機嫌そうだ。
「こういう時だからこそ、冗談が必要なものじゃ。」
「……。勝手にしろ。」
わぉ。老人は王を言い負かしたらしい。素晴らしい!!

うーん、それはそうと、
「あの、ところで、まほうしって、なんですか?」
私はやっと疑問を口に出来て、すっきり爽やか。
でも何故か、二人の目線が息ぴったりで私に集まる。

「「「……。」」」
一同沈黙。うん?

「……おお!そうじゃった。異世界の、しかも魔法が無い世界から来たのじゃったのぉ。そうじゃ、魔法士を知らなくとも何も不思議はない。」
数秒の間の後、老人は半ば感心したように言って私を見つめる。
「魔法士というのはのぉ、魔法で戦う戦士のことじゃよ。まさか、戦士が分からないことはあるまい?」
「はい。」
でも、魔法で戦う?戦うのか?どういう風に戦うんだ?うーん。
私は頭の中で自分の想像力を懸命に働かせて考えるが、どうも想像できない。
「各国にたくさんの魔法士がいる。魔法士の力の差は勝敗を大きく分けるんじゃ。実質上、国同士の戦争は魔法士の魔力の強いほうが勝つじゃろう。」
「その力の差は、戦うまで分からないんですか?」
「いや、力の強い魔法士ならだいたい分かるものじゃ。だが、だからと言って戦争から逃れることは出来ないじゃろうのー。」
「どうしてですか?」
逃れられない?どっちが勝つか、戦う前に分かっても?
「大多数の魔法士は国に忠誠を誓っておる。魔法でじゃ。言うなれば、縛られているのじゃ、国家に。」
「そんな。それじゃあ、命を無駄にしているのと変わらないじゃないですか!」
「うむ。そーじゃのぉ。出来の悪い君主に仕える者はそうなるかも知れんのぉ……。しかしそうやって国の為に命を落とすことは、名誉あることとされることの方が多いのじゃ。」
「……嫌だ。そんなの。」
私はぽつりとつぶやく。
戦争のない日本で育ったからなのかもしれない。そういった事実に対してすごい拒否反応がおこる。でも冷静に考えると、戦争とはそういうものなのかもしれない。結局のところ、戦争がある限り犠牲になる命は絶えないのだ。
「じゃが、まぁ、今のところ、その心配をする必要はないじゃろう。今は戦争が起こってないからの。……我が王のおかげで。」
老人はニヤリと王を視線で指す。
私はハッとして、王の顔を見つめた。
ああ、そうだ。この王が、今、この世界の戦争を防いでいるのだ。さっき何気なく聞いた事実が、何倍もの衝撃になって私を揺すった。
そうだ。そういうことだ。私の目の前にいるこの帝王が、ライナの平和を築いている。それがどんなに凄い事かってことに、私は今まで本当の意味で理解していなかった。
私は感動の眼差しで王を見つめる。きっと今、ものすごく目がキラキラしているに違いない。
「戦争など、ない方が良い。」
私の感動の視線に気づいただろう王は、私をチラッと見て、一言だけ言った。
私はその王の無表情な顔をみて、何故か安堵とも呼べる暖かい気持ちが、胸に溢れるのを感じた。

「もう充分だろう、帰るぞ。」
王は無表情な顔を少ししかめて言う。よく見ると、耳が赤くなっている。
これは!もしや照れているのか?
「……っぷ、ぁ!」
私は耐えきれなくなって吹き出してしまった。だって!!だって!耳が赤いなんて可愛すぎるっ〜!
すると、王は私の事をじろりと睨む。でも、ああ何故だろう。あんなに怖かったその顔が、オーラが、今は全く怖くない。私はますます笑った。

「ミオ、早く来い。」
いつまでも笑っている私に痺れを切らした王が、苛立たしげに私を呼ぶ。
私があわてて王に近づくと、もっと、というように腕を広げる。
「え?」
「もっと近くなければ、一緒に瞬間移動が出来ない。」
そういって王は、私をぐいっと引っ張った。
次の瞬間、私は王の腕の中にいた。
―へ?ええ!!っえええええ!!!
突然の展開に、意味もなくあわてふためく。どうにかこの状況から逃れようと王の胸を精一杯押すけど、びくともしない。それどころか、王は腕の力を更に強くした。
「いくぞ。」
凄く近くで声がする。私は思わずびくっとした。

「それでは、邪魔をした。」
王が老人、いやフォーカスさんに挨拶をする。
最後にチラッと見えたフォーカスさんの顔には、優しげな微笑が浮かんでいた。
なんで?
しかしその疑問を口にすることなく、私の視界が覆われる。
何?何なの?
「っきゃ!!」
ズンっという衝撃が私の体を駆け抜ける。……瞬間移動したのだ。
私は思わず目を瞑り、目の前の王の体に縋り付いた。


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