「目的地に、着きました。」
馬車の中でうとうとしていた私は、“目的地”という言葉に過剰に反応して、勢いよく顔を上げる。
目的地?!それって、それって……どこ??
私は窓の外を見渡す。そこは何かとても大きな建物の前だった。その建物は石で出来ているようで、黒くて綺麗な外観をしている。
私がイルエディア帝国王宮を離れてから、今日で丁度7日目だ。その間ずっとカイと一緒だった。でも私が脱走しようとした日以外、カイは私に触れることも無く、とくに何かを話すわけでもなかった。
男と女が2人きりで、そんなことがあるのか。
……あるのだ。
なにせ相手がカイだし。そして女の色気は皆無の私……。
何もなかったということは、もちろん嬉しいのだけど……。
女としてどうなんだろう、私。
いやいや、そんな事を考えている暇はない。私に色気がないのは最初から分かっている。今更そんなこと、気にしてられない。
問題にすべきはこれからのこと。
とうとう、カイの言う目的地にまで来てしまった。
ここはどこだろう。私には全く分からない。
私は何故誘拐されたんだろう?
それも分からない。分からないことだらけ。
不安で胸が張り裂けそうだ。
「ここは?」
「それは……。もうすぐ分かります。」
カイははぐらかすようにそう言って、私に降りるように促した。
カイはいつもこうだ。肝心な事は何も答えない。
私が馬車から降りると、そこには既に待機していたらしい男達が、さっと私を取り囲む。
全員黒い服をまとっている男達。全部で5人だ。
「な、なに?」
私は慌てて身構える。
何者?
しかし私の警戒なんて無意味なのだろう。次の瞬間には、私はその怪しげな男達に捕まっていた。
私を拘束する男の力は強く、私は自分の腕をぴくりとも動かせない。
「いや!あなたたち何者よ!離して!」
力では勝てない。異世界に来てからの数々の経験を元に、いち早く悟った私は、大声を出して助けを求める。
「これはどういう事だ!」
私の声を聞いて慌てて馬車から降りたのか、後からカイの声がする。
やはりカイの味方ではないのか。カイの仲間がこんな事をするはずがない。良かった。
……そう思ったのに。
「カイ殿でございますね。お役目ご苦労様でした。ここからは私たちにお任せを。」
私を取り囲む男達の中の一人が声を出す。
一番前にいる、肉食獣みたいな鋭い眼をした男だ。男達は一様に古汚い服を着て、まるでどぶ鼠の様に、肌も髪も何処も彼処も汚らしかった。
もしかして、こいつらはカイの仲間なのだろうか?私の心臓は凄い早さで脈を打っている。カイに騙されていたのだろうか。悪い人ではないと、そう思ったのは、間違いだったのだろうか。
「その人を離せ。」
しかし、カイは今まで見たこともない鋭い視線とオーラで、私を拘束する男達を睨んでいる。
この人たちは、そして……カイは、何者なの?
「……どうゆうこと?!」
私は呟いていた。この人たち、どこの誰なのさ!!!
怖い。
……怖いよ。
「助けて!」
私は声の限り叫んだ。
いや、叫んだと思う。
拘束されていた私は、男の腕の中で意識を失った。
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